不倫のことが、私たち夫婦の間で明るみに出る前から、海へ行く旅行を計画していた。
夫婦として、家族として、もう一度どこかでつながり直したい。そんな気持ちがあったから。
去年は、夫の両親と一緒にリゾートへ行った。
その頃、夫はまだ私にバレていないと思い込み、不倫を続けていた。私は、薄々感づき始めていた頃だった。
リゾートの予約したのは、不倫のことなど何も知らなかった時期だった。
日頃の感謝を込めて、義両親と贅沢な時間を共有したくて、少し奮発した内容の旅行にした。
けれど、出発の頃には私はすでに知っていた。
夫の裏切りも、スマホの中にある現実も。それでも、私はその旅行をキャンセルしなかった。
笑い合う夫と義両親の姿が、胸に刺さった。
「あなたの息子、不倫してますよ。」
そう言いたい気持ちを押し殺して、私はただ笑っていた。
言ったところで、何かが変わるだろうか。
誰かを傷つけるだけで、何も解決しないのではないかと思った。
私はただ、黙って波を見ていた。
そして今年。
今度の旅行は、私の両親と兄弟家族たちと。結構な人数になる。子どもたちも含めて、にぎやかな時間になるはずだった。
私の家族は、夫が不倫していることを知らない。
私が伝えていないのだから、知る由もない。
今になっても、私はそのことを話せずにいる。
隠していることに後ろめたさを感じながらも、伝えることで広がっていく波紋が怖かった。
それでも、旅行をやめるという選択肢はなかった。
家族の時間を大切にしたいという思いと、自分自身がほんの少しでも癒されることを期待していたから。
夫も同行することになっている。
もしかしたら、ほんの少しだけ“元に戻る”ことを期待しているのかもしれない。
でも、「元通り」とは何なのか、自分でもわからない。
不倫される前の私たち?
裏切りを知らなかった頃の自分?
どちらも、もう手の届かない場所にある気がしている。
旅行に行く日が近づいている。
荷物をまとめながら、心の中では整理できていない思いが渦を巻いている。
行けば何かが変わるのだろうか。
それとも、何も変わらないまま終わってしまうのだろうか。
ただ一つだけ決めていることがある。
笑う時は、心から笑いたい。子どもたちの前では、ちゃんとした“母親”でいたい。
苦しみや疑いの中でも、私は母であり、妻であり、ひとりの人間でもある。
そのことだけは、忘れたくないと思っている。
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