「対面でお話をして、安心してもらいたいので、こちらもお顔を見せますね。」
そう言われて、私は対面で話すことを選んだ。
本音を言うと、あんまり顔は見せたくなかった。自分でもわかるくらい、顔がひどい状態だったから。メイクで隠しきれないほど、心がすり減っていた。毎日の不安や恐れ、苛立ち、悲しみが、全部顔に出てしまっていたんだ。
だけど、それでもカウンセラーさんの言葉に従った。
画面越しに顔を合わせることが、信頼の第一歩だと感じたから。安心して話してもらうために、自分も顔を見せる。そんな覚悟が伝わってきて、私も心を開く覚悟をした。
スマホの小さな画面の中で、カウンセラーさんは穏やかな表情で私を見つめていた。そのまなざしには、緊張をほぐす力があった。初対面なのに、不思議と拒絶感はなかった。
「レイさん、いくつかお話を聞かせてください。」
その言葉で、少しだけ肩の力が抜けた。
質問は一つずつ丁寧で、私の気持ちを探るようだった。壊れ物を扱うように慎重だけど、核心に触れようとする誠実さも感じた。
「どういったことが知りたいですか? そして、それを知ったうえでどうしたいと考えていますか?」
「調査をして白黒をはっきりさせたい気持ちはありますか?」
「調査をしたいと思ったきっかけは何ですか?」
「ご主人について、年齢や職業など簡単な情報を教えていただけますか?」
「調査費用のご予算はどのくらいですか?」
尋問のように詰め寄る感じではなく、私の心にそっと触れながら、静かに、でも確実に核心に導かれていく感じだった。
気づけば、自分でも整理できていなかった思いや、押さえ込んでいた不安を話していた。
正直に言うと、私は「白黒をつけたい」と思っていた。不倫が本当かどうかをはっきり確かめたかった。でも、その先のことはあまり考えていなかった。
調査で「黒」が出たら、私はどうするんだろう?
離婚するのか、しないのか。
関係を修復するのか、それとも別の道を探すのか。
何も決めていなかった。ただ、不倫相手がいるなら「その女をなんとかしたい」という気持ちだけが心にあった。
でも夫とはこれからも一緒に暮らすかもしれない。子どももいる。家もある。思い出もある。単なる「黒」では割り切れない複雑な現実があるんだ。
「すぐに決めなくていいですよ。」
カウンセラーさんはそう言ってくれた。
「調査はあくまでも道具です。それをどう使うかは、レイさん次第です。結果をどう受け止めて、どう進むかは、調査後にゆっくり考えればいいんですよ。」
その言葉に、救われた気がした。
今すぐ答えを出す必要はない。白か黒かで判断を急かされるわけでもない。まずは自分の心を知って、何に苦しんでいるかを理解すること。それが第一歩なんだと気づいた。
「ただ……女性の勘は、ほぼ100%当たります。」
その一言が、胸に突き刺さった。
できればその勘は外れていてほしいと、心から願っていた。
でも勘は鋭く的確だから、私は苦しんでいる。胸の奥で「何かがおかしい」と叫ぶ声を無視できなかった。それを確かめるために連絡したんだ。
信用してきた人に裏切られているかもしれない恐怖。それを確信に変えてしまう怖さ。そして、真実を知った後、自分の人生が大きく変わるかもしれない不安。
それらすべてを抱えながら、私は今ここにいる。
選択肢は一つじゃない。離婚か再構築かの二択だけじゃない。もっと自分にとって納得できる道を選べる。その可能性に気づけただけでも、今日の話は意味があったと思う。
画面越しのカウンセリングを終えて、しばらくスマホを見つめたまま動けなかった。涙は出なかったけど、胸の奥で何かが静かに崩れていく音がした。そして、小さな「決意の芽」のようなものが生まれていた。
今、夫の不倫に悩む女性は多い。そして多くが「証拠が欲しい」と思いながらも、「そのあとどうしたいのか」がわからず立ち止まっているのではないだろうか。
不倫調査はゴールじゃない。むしろ、自分の人生を見つめ直す入口だ。証拠を掴んだからといって、すぐに答えが出るわけじゃない。だからこそ、信頼できる探偵やカウンセラーに相談することが、自分の心を守る第一歩になる。
私はまだ何も決めていない。ただ、「真実から逃げない」とだけ決めた。
そして、少しずつでいいから、自分の人生を自分の手で選び取りたいと思っている。
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