玄関のドアが、乱暴に開いた。
帰ってきた。
そう思った瞬間、夫の怒鳴り声が家中に響いた。
「俺の職場に電話しやがって!」
靴を脱ぐのもそこそこに、怒った顔のまま私の前に立つ。
結婚指輪を叩きつける。
「何考えてるんだ!」
「俺の立場をどうするつもりだ!」
「普通、職場に電話するか?」
私は呆然としていた。
そんなに怒ることなのだろうか。
私はただ、心配だっただけなのに。
以前なら黙って待っていたかもしれない。
でも、不倫が発覚してからは違う。
夫の言葉を、そのまま信じることができなくなってしまった。
だから、私は勇気を出して職場に電話した。
不倫を問い詰めるためじゃない。
夫を困らせるためでもない。
ただ、無事なのか知りたかった。
すると返ってきたのは、思いもよらない言葉だった。
「本日は有休をいただいております」
頭の中が真っ白になった。
有休?
今日は仕事だと言って出ていったはずなのに。
どこへ行っていたの?
何をしていたの?
いろいろ聞きたいことはあった。
でも、帰宅した夫は、そのことには一切触れない。
有休だった理由も。
嘘をついた理由も。
何も説明しない。
ただ、
「職場に電話するなんて非常識だ!」
「俺の信用をなくす気か!」
そう怒鳴り続ける。
私は思った。
本当に悪いことをしていないなら、まず説明するのではないだろうか。
「心配かけてごめん」
「有休を取っていたのはこういう理由だ」
そう言えば済む話ではないのだろうか。
でも夫は違った。
自分が何をしたのかではなく、自分がどう見られるのか。
私がどれだけ傷ついているかではなく、自分の立場。
いつもそうだ。
不倫したことを責められると怒る。
問いかけると逆ギレする。
そして最後には、自分が被害者のような顔をする。
私は、ただ心配しただけだった。
夫婦だから。
家族だから。
無事でいてほしいと思っただけ。
なのに、返ってきたのは怒りだった。
玄関から響いた怒鳴り声は、今でも耳に残っている。
でも、もっと忘れられないのは。
私を心配してくれる人ではなく、自分のことしか守ろうとしない人なのだと、改めて気づいてしまったことだ。
その瞬間、私の心はまた少し、夫から離れてしまったのである。
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