「俺、自分で親に言うから!」
怒りながら帰ってきた夫は、今度はそんなことを言い出した。
一瞬、何を言っているのかわからなかった。
自分の両親に?
何を?
自分が不倫していたことを?
私はこれまで、夫の不倫について夫の両親には言わずにいた。
もちろん、私だって言いたいと思ったことは何度もある。
「あなたの息子さんが何をしたか知っていますか?」
そう聞いてほしいと思ったことだってある。
でも、言わなかった。
夫のためでもあった。
義両親に知られれば、夫もつらいだろう。
親子関係だって悪くなるかもしれない。
それに、一度知られてしまえば、もうなかったことにはできない。
だから私は、自分が苦しくても黙っていた。
それなのに。
その夫本人が、
「もう親に言う!」
と言い出した。
……なぜ?
私には、夫が何をしたいのか本当にわからなかった。
私が職場に電話したことが、そんなにも耐えられなかったのだろうか。
そもそも私は、不倫を暴露するために職場へ電話したわけではない。
帰りが遅い夫を心配して電話しただけ。
そこで偶然、その日が有休だったと知っただけだった。
それなのに夫は、怒りながら帰宅して、
「俺の職場に連絡しやがって」
と私を責めた。
そして今度は、
「自分で親に言う!」
である。
私はだんだん、怒る気力さえなくなってきた。
これまで私は何のために黙ってきたのだろう。
不倫されたことだけでも苦しかった。
本当なら誰かに聞いてほしかった。
「つらかったね」
そう言ってもらいたかった。
それでも私は、できるだけ大ごとにしないようにしてきた。
夫の立場も考えてきた。
家族のことも考えてきた。
子どもたちのことも考えてきた。
自分の気持ちを飲み込んで、誰にも言わずに抱えてきた。
なのに、その配慮を一番簡単に壊そうとしているのが、まさか夫自身だとは思わなかった。
不倫をしたのも夫。
嘘をついたのも夫。
有休を取っていたことを私に伝えなかったのも夫。
そして、それが分かった途端に怒り出したのも夫。
最後には、
「親に言う!」
と言い出した。
もう、私には理解できなかった。
この人は今、自分が置かれている状況に耐えられないのかもしれない。
でも。
私はもっと前から耐えている。
あなたが不倫していたと知った日から。
信じていた人に裏切られた日から。
ずっと、ずっと耐えている。
それでも私は、あなたを守ろうとしていた。
誰にも言わずにいた。
なのに、そのことにすら気づかず、自分で全部壊そうとしている。
目の前で怒っている夫を見ながら、私は思った。
この人は、自分が何を失おうとしているのか、本当にわかっているのだろうか。
そして私は、このあとさらに夫の理解できない行動を目の当たりにすることになる。
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