電話の向こうが、静かすぎた。夫を初めて疑った日

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夫の行動に違和感を覚えることが、少しずつ増えていった。

帰宅時間。

会話。

スマホ。

散歩や筋トレ。

身支度や私服。

一つひとつは、たいしたことじゃない。

「気のせいかも」

そう思えば、いくらでも流せるようなことばかりだった。

だから私は、何もしなかった。

見て見ぬふりをしてた。

理由はいくつもある。

子育てに追われてた。

仕事にも追われてた。

毎日を回すだけで精いっぱいで、夫のことを疑ってる余裕なんてなかった。

でも、一番大きかったのは――

私は、夫を心の底から信じてたから。

「この人は絶対に私を裏切らない」

「家族を一番に考えてくれてる」

「何があっても、私たちの味方でいてくれる」

本気でそう思ってた。

むしろ、夫を疑うこと自体が申し訳ないとさえ思ってた。

だから、小さな違和感が出てくるたびに、自分の中で打ち消してた。

考えすぎ。

疲れてるだけ。

夫婦なんて、ずっと同じじゃない。

そうやって何度も、自分を納得させてた。

でも、ある日の一本の電話で、それができなくなった。

目次

保育園から電話がかかってきた

私はフルタイムで働いてる。

当時、子どもはまだ小さくて、保育園に預けてた。

朝はバタバタしながら準備して、保育園に送り届けて、そのまま仕事へ。

帰ってきたら、ごはん、お風呂、寝かしつけ。

そのあとに洗濯や翌日の準備。

毎日、本当に余裕がなかった。

夫の方が出勤時間が早く、出勤時間が早い分、退勤時間も早かったから、平日の保育園のお迎えは夫が担当してた。

今考えれば、二人の子どもなんだから「お願いする」ことじゃない。

でも当時の私は、どこかで夫にお願いしてるような気持ちになってた。

そんなある日の午前中。

仕事をしていると、保育園から電話がかかってきた。

「お子さんが発熱しています。できるだけ早くお迎えをお願いします」

子どもが小さければ、珍しいことじゃない。

でも、その日はどうしても外せない仕事があった。

私はすぐに夫へ電話した。

普段通りなら、夫に迎えに行ってもらえる。

そう思ってた。

夫が電話に出ない

でも、出ない。

何度コールしても出ない。

普段なら、わりとすぐに出るのに。

「会議中かな」

「トイレかもしれない」

そんなふうに考えて、一度電話を切った。

少しすると、夫から折り返しがあった。

よかった。

そう思って、すぐに電話に出た。

「子どもが熱出したみたい。お迎えお願いできる?」

そう伝えた。

そのときだった。

なんか、おかしい。

電話の向こうが、静かすぎる

最初に気になったのは、夫の声じゃなかった。

電話の向こうの音だった。

何も聞こえない。

人の話し声もない。

誰かが歩く音もない。

機械の音もない。

本当に、何もない。

完全な無音。

まるで、外の音が遮断された部屋に一人でいるみたいだった。

その静けさが、妙に気になった。

夫は仕事に行ってるはず。

なのに、

なんでこんなに静かなの?

一瞬、そんなことを思った。

でも聞けなかった。

そのまま夫は言った。

「……お迎えには行けない」

淡々とした声だった。

理由をあれこれ説明するわけでもない。

申し訳なさそうにするわけでもない。

ただ、

「行けない」

それだけ。

私はそれ以上聞かなかった。

結局、私が迎えに行った

職場に事情を話して、仕事の段取りをつけた。

急に抜けることを謝って、保育園へ向かった。

午後から半日休めば、その分の仕事は翌日に残る。

でも、そんなこと言ってられない。

子どもが一番。

「なんとかなる」

「今は私が頑張ればいい」

そう思って、子どもを迎えに行って、そのまま病院へ連れていった。

幸い、子どもの体調は大事には至らなかった。

元気そうな顔を見て、少しほっとした。

でも。

私の頭には、ずっと別のことが残ってた。

あの電話の静けさ。

夫は、どこにいたの?

どうしても気になる。

夫は、どこにいたんだろう。

本当に職場にいた?

だったら、どうしてあんなに静かだったんだろう。

それまでだって、夫に違和感を感じたことは何度もあった。

でも、いつも自分で理由をつけて終わらせてた。

「考えすぎ」

「気のせい」

「夫を疑うなんてよくない」

そうやって、全部押し込めてきた。

でも、あの電話だけは違った。

何度考えても、引っかかった。

忘れようとしても、あの無音が頭に残った。

初めて「確かめたい」と思った

疑いたくなかった。

できることなら、

「あのときは、たまたま静かな場所にいただけだった」

って笑いたかった。

それで全部終わりにしたかった。

でも、どうしても引っかかる。

何度思い返しても、あの電話の向こうには何の音もなかった。

そして、今まで気のせいだと思おうとしてきたことが、次々と頭に浮かんできた。

SNS。

会話。

散歩。

筋トレ。

身支度。

私服。

帰宅時間。

一つひとつなら、何でもないと思えたこと。

でも、それが全部重なったとき、

初めて思った。

もしかして、私はずっと何かを見ないようにしてきたんじゃない?

怖かった。

もし何かあったらどうしよう。

何も知らなければ、今まで通り暮らしていける。

夫は家に帰ってくる。

家族でごはんを食べる。

子どもたちも笑ってる。

だったら、知らない方がいいのかもしれない。

そう思う自分もいた。

でも、もう一人の自分が言ってた。

確かめないまま、この先ずっと夫を信じられる?

その答えは出なかった。

ただ、ひとつだけ決めた。

もう、「気のせい」で終わらせるのはやめよう。

夫を責めたいわけじゃない。

問い詰めたいわけでもない。

ただ、本当のことが知りたい。

何もなければ、それでいい。

「私の考えすぎだった」

そうわかれば、また夫を信じられる。

そう思った。

そして、この日初めて――

私は、夫の行動を確かめてみようと思った。

何から始めればいいのかなんて、まだわからなかった。

何を見ればいいのかも、どこまで確かめればいいのかもわからない。

ただ、もう見て見ぬふりはできなかった。

あの電話の向こうは、どうしてあんなに静かだったのか。

夫は、あのときどこにいたのか。

私はまだ、その答えを知らない。

でも――

その答えは、私が思っていたよりずっと残酷なものだった。

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