探偵事務所から届いた、
「お電話可能ですか?」
というLINE。
しかも、できれば顔を見ながら話したいと言われた。
文字で送るだけでもあんなに緊張したのに、今度は自分の口で夫のことを話さなきゃいけない。
正直、怖かった。
すると、担当のカウンセラーさんからこんなふうに言われた。
「対面でお話をして、安心してもらいたいので、こちらもお顔を見せますね」
それを聞いて、私も顔を見せて話すことにした。
本当は、顔なんて見せたくなかった
本音を言えば、あんまり顔を見せたくなかった。
自分でもわかるくらい、ひどい顔をしてたから。
疲れてた。
毎日不安だった。
夫のことを考えてはモヤモヤして、でも何もできなくて。
仕事と家事と育児に追われて、心にも体にも余裕なんてなかった。
鏡を見るたび、
「私、こんな顔してたっけ」
って思うこともあった。
だから、知らない人とはいえ、そんな自分の顔を見られるのは嫌だった。
でも、
「こちらも顔を見せます」
と言ってくれたことで、少し気持ちが変わった。
この人もちゃんと顔を見せて、私の話を聞こうとしてくれてる。
だったら、私も話してみよう。
そう思った。
画面の向こうに、初めて夫のことを話せる人がいた
通話が始まった。
スマホの小さな画面に、カウンセラーさんの顔が映った。
穏やかな表情だった。
初対面なのに、不思議と嫌な感じはしなかった。
「レイさん、いくつかお話を聞かせてください」
そう言われて、少しだけ肩の力が抜けた。
そこから、一つずつ質問された。
「どういったことが知りたいですか?」
「それを知ったうえで、どうしたいと考えていますか?」
「白黒をはっきりさせたいという気持ちはありますか?」
「調査をしたいと思ったきっかけは何ですか?」
夫の年齢や仕事のこと。
これまで気になっていた夫の行動。
そして、調査にかけられる費用のこと。
いろんなことを聞かれた。
でも、尋問されてるような感じはなかった。
一つ聞かれて、私が答える。
また一つ聞かれて、考えて答える。
そんなふうに話してるうちに、自分でも整理できてなかった気持ちが、少しずつ言葉になっていった。
「白黒をはっきりさせたい」
そして私は、初めて口にした。
「白黒をはっきりさせたいです」
夫が本当に不倫してるのか。
それとも、全部私の考えすぎなのか。
もう、このままわからない状態でいるのがしんどかった。
本当のことが知りたかった。
でも、
「じゃあ、黒だったらどうするの?」
と考えると、何も答えられなかった。
離婚する?
しない?
夫婦関係をやり直す?
子どもは?
家は?
これからの生活は?
何ひとつ決めてなかった。
ただ一つだけ、はっきりしてた。
もし本当に相手の女性がいるなら、
「その人のことは、どうにかしたい」
そう思ってた。
でも、夫については違った。
腹が立ってる。
疑ってる。
それでも、夫とはこれからも一緒に暮らすかもしれない。
子どももいる。
家もある。
一緒に過ごしてきた時間もある。
「浮気してました。じゃあ離婚します」
そんな簡単な話じゃなかった。
「すぐに決めなくていいですよ」
そんな私に、カウンセラーさんは言った。
「すぐに決めなくていいですよ」
そして、
「調査はあくまでも道具です。それをどう使うかはレイさん次第です。結果を見てから、その先を考えてもいいんですよ」
そんなふうに話してくれた。
その言葉を聞いたとき、少し楽になった。
私はどこかで、
「調べるなら、その後どうするのかまで決めておかないといけない」
と思ってた。
離婚するために調べるのか。
夫婦をやり直すために調べるのか。
何か目的を決めてからじゃないと、調査してはいけないような気がしてた。
でも、
今はまだ決めなくていいんだ。
まず、本当のことを知る。
そのあとで考えてもいい。
そう思えた。
「女性の勘は、ほぼ100%当たります」
そして話の中で、カウンセラーさんが言った。
「ただ……女性の勘は、ほぼ100%当たります」
その言葉だけは、妙に残った。
100%なんて言わないでよ。
そう思った。
外れててほしいのに。
私の考えすぎであってほしいのに。
夫は何もしてなくて、
「あのとき、なんであんなに疑ってたんだろう」
って笑える日が来てほしいのに。
でも同時に、
「やっぱりそうなのかな」
と思ってる自分もいた。
ずっと感じてきた、
「何かがおかしい」
という感覚。
それを確かめるために、私は今ここにいる。
真実を知るのが怖かった
夫が本当に私を裏切っていたら。
その事実を知った瞬間、今までの生活が全部変わってしまうかもしれない。
それが怖かった。
知らなければ、今まで通り暮らせるかもしれない。
夫が帰ってきて、
家族でごはんを食べて、
子どもの話をして、
また次の日が来る。
でも、もう私はそこに戻れないところまで来てた。
知らないふりをするのもしんどい。
知るのも怖い。
どっちに進んでも怖かった。
だったらせめて、
自分で選べるようになるために、本当のことを知りたい。
このとき初めて、そんなふうに思った。
通話を終えても、しばらく動けなかった
話が終わった。
スマホの画面が消えても、私はしばらくそのまま座ってた。
涙は出なかった。
何かが解決したわけでもない。
夫が浮気してるとわかったわけでもない。
むしろ、これからだった。
それでも、話す前の自分とは少し違ってた。
誰にも言えなかったことを、初めて誰かに話した。
「夫が浮気してるかもしれない」
「本当のことが知りたい」
それを初めて、自分の口で言った。
それだけでも、私にとっては大きなことだった。
私はまだ、
離婚するとも、
夫婦をやり直すとも、
何も決めてなかった。
ただ、一つだけ。
このとき決めた。
もう、真実から逃げるのはやめよう。
怖くてもいい。
すぐに答えを出せなくてもいい。
まずは、本当のことを知ろう。
ここから私は、
「夫を疑ってるだけの私」から、「確かめるために動く私」へ変わっていった。
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